すぷログ

ゲーム中心の雑記。Kenshi奴隷スタートシナリオロールプレイ日記連載開始しました!

【Kenshi】ロールプレイ日記0-1 石の海の誓い

お詫び。

書いているうちに段々と初期メンバーの前日譚となってしまい、ややプレイ日記とは異なる風味になってしまいましたが、ボツにするのがもったいないという判断からそのまま書き上げました。ということでキャラメイキングの延長線としてのキャラクターの出目紹介回ということでお一つ。本編開始は次回更新からです。多分、ウン。

 

 

 

ホーリーネーション

数千年の歴史を持つこの国が栄えた背景に、最高神オクランの物語がある。

光と闇の生命が互いに存在し、その二つの均衡が世界を形作る。この国以外の教えを受けた者であればそう答えるらしい。

この国では違う。最高神オクランは光の使者である。オクランの預言者である初代フェニックスはオクランの教えを説き、民衆へ広く伝えた。それが国家となった。

預言者フェニックスは死の際に人間の男の子としてこの世に再び生まれると予言し、子孫はそれがオクランの意志と受け取った。固く護られた予言は62代にまで渡り、現在も指導者として座している。

途方もない時間の流れによってオクラン教の教えはいつしか光の使者たちで世界を満たし、闇の存在を駆逐していくという教えに変わっていった。人間の男はオクランの使者とされ、世界を光に包む存在である。女は堕落の神であるナルコの化身とされ、激しい差別と犠牲の対象となった。人間の手によってのみ世界を救うとされ、機械による技術革新もこの国では御法度となった。とりわけスケルト*1は闇の象徴、世界を蝕む絶対悪とされ、かれらの殲滅によって世界は救済されると考えられている。

彼らが狂信するオクランがどれほどのものなのか、数千年にわたって語り継がれた現実を聞かされるだけで納得がいく。これほどの時間、国家が守り続けられたという実績だけでオクランの威光というものが知れるだろう。

 

あたしはまともな教育を受けていない以上、一部推察が入ってるし全て正しいかどうかはわからない。

ただ一つ言えるのは、この馬鹿でかい像を作るためだけにあたしは今人間でなくなっている。

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リバース鉱山。ホーリーネーション領にいるグリーンランダーの男以外が来世を信じて労働に励むところ。労働によって闇の存在であるあたしたちは来世で光に転ずることができる。そのように教えられている。偉大なるフェニックス62世像を作ることによって。

 

あたしは母の顔を知らない。あたしは父の顔をよく知らない。罵声と暴力の果て、迷い込んだ街はずれでうずくまるあたしに歩哨共が取り囲み、次に見えた景色はこの石鉱山だった。

 

今あたしがやっていることはこの鉱山で掘削作業をすること。これに歩哨の罵声が加わる。それだけで今の生活はここに来る前よりは案外マシなのだ。

 

彼女はそうじゃなかった。

 

あたしよりも後に来た背の高いスコーチランダーの女性。青くてきれいな髪をしていた。今はどんな人も奴隷の証として髪は剃られ、角は折られる。女の命を絶たれても、彼女の眼はどこまでも青く光っていた。

 

「こんな子供でも虐げられるのね。悪魔はどっちかしら」

 

あたしは彼女がつるはしを振り下ろしたところをほとんど見たことがなかった。何か取り繕うように振っているところはみたことあるが、とにかく彼女は彼らの言う堕落の神であった。

 

意味のない像を作り続ける毎日の中で、彼女の振る舞いにあたしは昔の生活を思い出した。家に寄り付かず、日々を生きるために窃盗を繰り返す毎日。女であるために自分の子供と扱われず、それ故に縛られるものはなかった。死んでもいいけど、自殺はしたくない。虐げられる理由が当時はわからなくて、ひたすら反発した。

 

彼女はひたすら鍛錬をしているように見えた。枷を多くつけて走り込み、時に同じ奴隷を気絶させたり、それを歩哨に試そうとして返り討ちに合っていたりした。そうしているうちにあたしが標的となる。

 

「私の暗殺術に気づくなんて……」

「変な人だとは、思ってた」

 

大言壮語もいいところだったけど、彼女の顔に冗談はなかった。真剣になにか経験を積もうとしていた。あたしにも見抜かれるくらいに未熟な技術が、逆に興味をそそられた。

 

「あなた、小さい割に経験を積んでいそうね。私にあなたの経験を教えて!」

 

初めての感覚だった。

 

「それをして、どうするの?」

「決まってるじゃない、こんなゴミ山を出て今度こそ自由になるのよ」

「来世があるかもしれないのに?」

「来世でも来世を待つつもり?」

 

あたしは手に持っていたつるはしを投げ捨てた。

 

「自由になったら、なにをしていい?」

「なんでもしていいのよ。でも、だれもあなたを助けてくれない。だから、あなたを助けてくれる人を探すの。私みたいにね」

「お姉さんはあたしを助けてくれる人?」

「いい響きねお姉さんって! あなたが私を助けてくれるなら勿論よ」

 

なんでもいい。拠り所が欲しかった。嘘でもいいから、安らげるところが欲しかった。あたしに興味を持ってくれる人なんて見たことなかった。

 

「いいよ。あたしがここに来る前にしていたことを教えてあげる。だから、外を案内して」

「やったぁ! そういえば、あなたの名前は?」

「……ええっと」

「じゃあお互いに別の名前で言い合おう。それでいいじゃない。生まれ変わった気分でね。rebirthって、なんだかHNにそそのかされたみたいだけど」

 

打ち捨てられたようなあたしに名前があってもだれも呼ばなかった。誇れない名前をかざすより、認めてくれた人に名前を付けてもらう方に温かさを感じた。

 

「あなたは泡。そして私は沫。世界から泡のように消えた私たちにはぴったりだと思うの」

「あたしもあなたもここにいるよ」

「ここにいる時点で人間としては一度死んでるわよ。ここを抜けて、もう一度泡としてよみがえるの」

 

後のBubble Nationの産声である。

 

*1:いわば機械人間。文明が滅びる前の帝国の技術の産物。現在の文明レベルでは制作不可能のロストテクノロジーとなっており、現存するものは数千年の歴史を持っていると言える。また彼らのような形をする義手義足もまたスケルトンの象徴であり、それらをつけた人間もまたスケルトンであるとみられる。