【Kenshi】ロールプレイ日記 1-2 放たれたものども
「!? だ、誰!?」
沫にとっては予定外だった。2人で脱出する以外に考えておらず、自身と同じく脱走を企てる奴隷がいたとして仮にも鍛えられた歩哨である彼らを撒いて脱出を成功させるほかの者がいると思っていなかった。自身の脱出の際に奴隷を解放させたのも真の狙いは歩哨への攪乱、利用したに過ぎなかった。
「あいつら案外どんくさいから、一人くらいは抜け出すと思ってたよ」
沫に比べて泡の口ぶりは淡々としたものだった。
寡黙を貫いていたその人は見下ろす視線を落とし、大柄な身体を小さくした。
「まずはあなたたちに感謝する。無益な日々と縁を切ることができた。不器用な私ではあの忌々しい枷ですら外すことができなかった」
薄紫色の硬質な肌。胸には沫と同じような膨らみがあるが、肩や背中に生える棘がローブ越しからでもわかるほどに存在感を放つ。何よりも頭に数本の突起。何かがおられたような跡は奴隷の証、誇りの喪失の証であることを2人は知っていた。
シェク。人間とは異なりながらもこの世界に住む住人の一人である。*1
「肥溜めに打ち捨てられた私に蜘蛛の糸が垂らされた。自分も生きるのに必死だったのにな。フラットスキンに突き落とされた地獄から掬い上げてくれたのはまたフラットスキンだった」
「そ、そう……? 私たちもそこまで考えてたわけでもないのだけど」
「なんでもいい、結果的に私はあの鉱山の束縛から解放されている。きっかけをくれたあなた達に感謝をしたい。私は何をすればいいんだ」
フラットスキンを下に見る誇り高い種族がこうして首を垂れている。
沫は何か高揚感のようなものを感じざるを得なかった。
「私には夢がある。」
転がされる日々の中で頭に思い描いていたもの。決して口外してこなかったもの。夢物語と一蹴されそうなもの。
一人で生きてきた中でようやく手に出来そうなもの。
「しばらくこの国の兵は私たちを探すだろうけど、今自由を得た。そうしたら組織を作る。野盗なんてものじゃない、強大な組織。私や皆をコケにした者たちに復讐するの」
「そんなことできるの?」
「やるのよ。ここから先が厳しいかもしれないけど、やるの」
奴隷の日々の中でも決して光を失わなかったもの。心に巣食う復讐心。その炎が灯となり、この日を迎えた。それは今篝火となる。
「あなたたちは、ついてきてくれるよね?」
沫は二人を見据える。
「行くところがないから、沫についていくよ。あたしは」
当然とばかりに。泡は沫に身を寄せる。希薄な表情でも今回はどこか柔らかい。
「一度奴隷に堕ちた私はもう祖国には帰れない。貴女の夢をかなえる武器になろう」
角の無いシェクもまた、生まれ変わった気持ちだった。
リバースの外れ、2人に1人が加わり、勢力が芽吹くこととなる。
「ところで、あなたの名前は?」
「名乗る名前がない。とりあえずソトでいい」
それからの3人は鉱山の歩哨から小耳にはさんだ情報をもとに北へと逃走した。リバース鉱山の北、隠された森という地方に彼らにとっての敵である勢力がある。
「リバース鉱山を逃れてきたのか。大したものだな」
浮浪忍者。HNの差別の被害者が集まり、レジスタンスとなった組織。リバース鉱山から逃れた人々も多く流れ着き、皆一様にHNへの恨みつらみが積もっている。*2
モールはその浮浪忍者の指導者である。浮浪忍者はHNの数少ない明確な敵対少数組織であり、そんな彼女には5万cat*3の賞金首がかけられている。
まずはこの組織に加担しようと考えた。
「今はまだ難しいけど、いづれかはあの国を滅ぼしましょう」
「良い心意気だ。浮浪忍者はあなたたちを歓迎しよう」
モールと沫が握手をする。浮浪忍者と手を組むということはHNと完全な敵対することになる。
「一応あなたの故郷だったわよね?本当にいい?」
「知らない、あんなとこ。それよりも荷物下ろしたいんだけど」
「ああそうね。お宝、ちょっと取引しましょうか」
浮浪忍者の村に来る前、リバース鉱山近くにあった遺跡から機械製品をいくつか持ちだしていた*4。これらをこの村の武具店で売りさばき、武器を調達する。泡と沫はクロスボウ*5を、ソトは板剣*6を取った。
「腕っぷしに自信がなくても逃げ足に自信があるならこいつがぴったりだぜ。当てる腕前は自分で鍛えな。そっちのシェクの姉ちゃんはでかい武器でいいんじゃねえか?」
店員のセールストークに乗せられつつ、武器を選んだ。
「ここはカニバルの徘徊区域でもあってな、力試しの相手にはちょうどいい。HNを倒す前に奴らで自分を鍛えるのもいいぜ」
「カニバル? 人肉を食うやつらってこと?」
「そういうこった。人間のようだがこっちの話をまるで聞かねえで食材としか見てねえ奴らだ。ちょっと森をはいりゃ奴らのキャンプがある。興味があれば森を巡回すると言いぞ」
「そいつらとあなた方浮浪忍者は普段から戦っているのか?」
「まぁこっちを侵略しようとしてるからな。カニバル平原ってとこがあって、そこから来てる奴らなんだが……といっても追い払ってる程度だ。あんまりしつこいやつは殺してしまってる」
「じゃあそいつらでクロスボウの打ち方練習してくるね」
「あ、ちょっと泡! お姉さんありがとうございました!」
HNの連中でも手が出しづらい浮浪忍者の森を擁する隠された森。浮浪忍者は侵略するカニバルと戦いながらHNを打倒するため刀を研ぎすます。彼女らに匿ってもらいつつ、泡たちはしばらく浮浪忍者に混じってカニバルと戦うこととなった。
時にはこんな大物にも出会った。
「何この気持ち悪いの」
「私は聞いたことある。ビークシングって言ったか、生きたものでも食らう凶暴な肉食動物だ。昔何回かやりあったことがある。こいつらは基本群れで行動するんだがな」
「外はこんな凶暴な奴がいるのね。1匹だからなんとかなかったけど……カニバルにむしろ押し付けたいわ」
*1:身体的には記述の通り。ルーツは文明崩壊前にさかのぼるが詳しいことはわかっていない。寡黙で冗談が嫌い、身体の研鑽に重きを置き、何事にも武力で制するのが一番という脳筋種族。実際シェクは人間より戦闘能力的には大体優れていると言っていい。シェク王国という国があり、名前の通り全世界の種族人口の多くはその国にいる。シェクは人間をフラットスキンと罵り、後頭部から生やした角を誇りの証としている。角がおられたシェクとはそういうものだ。
*2:この世界の忍者は特定の主に仕える者は極少数で、軽装の歩兵や野盗という印象が強い。浮浪忍者でいえばHNから逃れ、世界のどの組織にも与せずただ打倒HNを掲げる軽装歩兵集団と言い換えてもいい。
*3:catとはこの世界の通貨のこと。5万catの首といえば大罪人としてその国に市民レベルで広く晒されていると思っていい。プレイしてると割と簡単に超えちゃうけど
*4:この世界の文明が滅びる前の遺構がここ以外にも全世界に残存しており、そこには当然当時の物が眠っている。現代では希少なものとなっているものもあり、当然高値で取引される。因みにハイテク技術を良しとしないHNでは禁制品となっているものばかりであり、所持しているところを見られたらしょっ引かれる。
*5:歩兵装備としてはこの世界唯一の遠距離攻撃手段。近距離戦闘を始めるとき、敵に近づくとお互いにすり足を始めるため、引き打ちし続ければ時間はかかれど完封してしまうことが可能。フレンドリーファイアしてしまうことと、重い防具ではクロスボウスキルに多大なマイナス補正がかかることから万能というほどでもないが、ある程度の格上も簡単に相手取ることができる。
*6:重武器というカテゴリの中の一つ。両手剣みたいな形状をしており、攻撃範囲と一撃に重きを置いた浪漫武器。一振りが重いのでタイマンは苦手だが、その攻撃範囲から敵集団にまとめて負担をかける手段となる。力ないキャラには使いこなせなせず、限界まで筋力を上げても使いこなせないものもあり、その場合はサイボーグ化しなくてはならない